真夜中の散歩

今年も夜の散歩の季節がやって来た。 ここ2〜3年、私は夜の散歩を怠ってきた。 私は寝静まった住宅街 人も居ないのに点滅する信号灯 時たまに通り過ぎる車の排気ガスの匂いに魅せられてきた。 そして物思いに耽るのだ。 私の過去、そして過去に関わってきた人々。 それらは月の光に照らし出され、赦しを得て 夜の空気に溶け出し そして宇宙へと吸い上げられていく。 後悔と感じたくなかった様々な出来事も 自分も他人も同様に赦しを得て 夜の空気へ溶け出す。 私の吐く息は白く、 息を吸い込むたびに体の至る所 爪の先から髪の毛の先に至るまで 細胞が喜びに打ち震えるのを感じる。 完全なる自由に。 完全なる孤独に。 未来にも想いを馳せる。 確定された未来 不確定な未来 希望 恐れ。 もはや私を脅かすものは何もない。 死すらさえも道ばたの石ころと何ら違いはなく またその石ころが 一神教の神、多神教の神々と同等の崇高さを備えていることを確信する。 そして私はカラスが鳴く前にベッドへ潜り込み イマという時間を貪り食う存在に戻るために 周到な準備をする。