枯れてもなお残るは薔薇の名前

『薔薇・薔薇十字会・ロザリオ

キリスト教徒は、サラセン人からロザリオを受け継いだ。それを受け継いだとき彼らは、el-wirdia(文字通りの意味は、朗唱する人)という 言葉を、本来の音にほぼ近い、薔薇の輪、もしくは薔薇園を表す、el-wardiaという別の言葉に翻訳した。ロザリオにあたるアラビア語を完全な形で示 せば、el-misbat、el-wirdiat(朗唱する者の礼賛者、もしくは近くに引き寄せることの礼賛者)となる。この用語(WRD)は、スー フィーもしくはデルヴィーシュの特殊な行に用いる特別な専門用語である。イメージを創り出すために類似した言葉を使うというスーフィーの詩的(もしくは紋 章学的な)方法の採用が誤訳でないのと同様に、カトリックのラテン語への翻訳も誤訳とはいえない。

デルヴィーシュの行を表す「ウィルド」(wird)という言葉を、スーフィーたちは、詩的にWaRDすなわち薔薇と呼んでいた。「薔薇十字主義」 という用語に関しても似た様な展開が生じた。これは、WRDという語根と、アラビア語の「十字」という意味の語根SLBを合わせたものである。したがって 「薔薇十字」という言葉の中で使われている、SLB語根の十字という意味は、ほんの付随的なものに過ぎない。

スーフィーたちは、こうした符号もしくは詩的な並置法を利用して、例えば「キリスト教徒には十字架しかないが、わたしたちには十字架の神髄があ る」、あるいはそれと似た様な言い回しをするが、翻訳ではその意味の多重性は失われてしまう。あるデルヴィーシュ教団(アブドゥル・カーディル・ジーラー ニー教団)は、こうした秘儀的意味での薔薇という観念を中心にして形成されていて、その創始者は、バグダートの薔薇と呼ばれている。

薔薇十字会のような存在について為される、役に立たない憶測の多くは、こうした背景についての無知が原因となっている。なぜなら薔薇十字会は、そ れと並行して発達してきた錬金術と呼ばれるものに含まれている古代の教え、また自らを薔薇十字会員であり、錬金術師にして照明学者でもあると主張している ベイコン修道士も示唆している、古代の教えを保持しているという主張を繰り返しているに過ぎないからである。スーフィズムにおけるこうした組織の起源は、 ベイコンがどんな組織に属していたか、秘密の教えとは、実のところどんなもので、あったのかという問いに解答を与えている。

他の多くの薔薇十字会の象徴もスーフィー的である。マルティン・ルターは、自分の紋章に薔薇と十字と指輪を使ったが、これはスーフィーの秘儀参入者から与えられたものに違いない。』

イドリース・シャー著 「The Sufi」注釈より

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