はなれ
4−5年前に農家の宿、というか"はなれ"を借りた。
戦前に物書きが住んでいそうなところだ。
リビングに当たる部屋は結構広く、全面のすべての障子があけられ、
外が見られる様になっている。障子の柄も洒落ている。どこか旅館に来たみたいだ。
キッチンはもちろん土間だ。
部屋を片付け、食事がおわったあと、私は仕事へ行く。懐に小さな香炉をもって。
仕事と言っても、駅前にたむろしているHIP HOPの若者の相手が何故か私の仕事だ。
朝の始発がくるまで、残ったみんなで、帽子のとりあいの追いかけごっこをして、
ほどなく別れた。
簡単な道のりなので、近道してやろうと思い、田んぼの畔に入っていった。
方向だけは判っていたのだが、案の定みちに迷い、遠くから
歩いて来た農家の人に道をきいた。
"おお、むらまつさんとこのはなれなら、ここ真っすぐですぐに着くだよ"
遠くから見えていた闖入者の私への態度は聞き慣れた知り合いの名によって、
コロリと変わった。ま、そんなもんだ。
ありがとう、と礼をいい、家路へ急ぐ。
門構えこそはそこそこ立派なのだが、開きにくい門をよいしょっと開ける。
門の上には、””一庵””というカンテラがかけられている。
玄関を開けると、ついたままの蚊取り線香と、横座りをして着物をきた奥さんが
今起きましたといった火照った顔つきで、一言"まだ、ねむいわー"といった。
"まだ寝てりゃいいのに。。。"とは言ったが、
起きて迎えようとした彼女がかわいらしかったし、いじらしかった。
部屋へ入って畳の上でボーッとしていると、奥さんはgoogleだかmixiだかで
文字を検索したいらしく、一生懸命になにやら打っている。
どうやら、"サー庵"と入れたいらしいが、なかなかその単語に辿り着かない。
声をかけようか、変わりにやろうか、とも思ったが、一生懸命になっているので、
また、畳でごろんとして、"サー庵"とはなんぞや?と思いながら
夢の続きをみることにした。
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