イラン:経済改革が事実上のベーシックインカムの到来を告げる / レポート:ハミッド・タバタバイ

Basic Income Earth Network
Flash News 63 November 2010
http://www.basicincome.org/bien/pdf/Flash63.pdf

ベーシックインカム、もしくは市民インカムのコンセプトはイランではほとんど知られていない。3年間近く行なわれた、政府の新しい経済改革を巡る論争と議論では、政治、研究、メディアからのベーシックインカムについての言及は一切なかった。そ れにも関わらず、ベーシックインカムの特質を装う、全国規模の現金譲渡計画が、今まさに始まった。約6千5万人のイラン人、もしくは人口の81%がたった 今、銀行口座に振り込まれた最初の給付、1人81万リアル(約81USドル)を受け取ったところだ。給付は二ヶ月毎に行なわれ、資力調査が伴われることはなく、無条件である。また、彼らは実施を進めていきながら、数年のうちに金額を2倍にするようである。残った人口の19%は、主にお金を必要としないという理由で、自発的にプログラムを辞退した。

これと同様に注目すべきは、斬新さがこれに尽きないないことにある。毎年かかる数百億ドルは、原油輸出や政府の財源から来るのではない。その現金譲渡は、様々な商品やサービスに今後国 が支払う予定であった上値から完全に資金が調達される。それらは主に石油製品で、この数十年間、巨額の補助金が拠出されてきた。(今までガソリンには1リットルあたり0.10ドルの出費、軽油は1リットルあたり0.02ドル以下を出費してきた。同様に、天然ガス、電気、そして水道料金やパンに対しても充てられてきた)。このような補助金は、中間所得層(人口の70%から30%へ落ち込む)よりも、はるかに富裕層の利益になってきており、結果として、食料 品やエネルギー資源の無駄な浪費、新技術に対する不十分な投資、環境汚染、それに加えて近隣諸国への密貿易に繋がってきた。この非効率で不公正なシステム を終わりにする為に、今年前期に『補助金対象法』が発令され、約5年をかけて、ほとんどすべての間接的、直接的な価格補助金を段階的に廃止させ、家庭や様 々な経済、社会分野に対する定期的な現金譲渡に置き換えられる。価格上昇規模はいまだ未知数であるが(2010年11月半ば現在)、これらは巨額に上るも のと見られており、場合によっては数倍になると見られている。公式発表では、11月後半に向けて新たな物価に直接影響があらわれると予測されている。

かなり興味深いことに、現金譲渡の普遍性と一様さは、実際に強く要求し続けたり、望んだ誰かがいたわけではなく、また政府サイドから、原案を前面に押し出し た誰かや、議会のなかで原案に対して反対し、廃案にならなければ、修正を求めるといった誰かがいたわけでなく、行なわれることとなった。それにも関わら ず、その意図はきっぱりと、住民の少数の富裕層の現金移転を目標とし、受益者を住民の所得規模の10分位数、一番下の2か5か7にするかといった駆け引きが行なわれた。そのうえ計画は、社会的公正のために低所得者により多くを支給するといったものであった。もし、結局のところ、登録する手間をかけた全ての人に同額が支給されることが決定されたのならば、それは単に、資力調査目標の大規模な実施が(1700万世帯以上の調査票が記入され、解析された)、その結果について募った国民の抗議として大失敗に終わったことによる。全ての人への同額支給の原則は、無理矢理そこに押し込まれた。なぜならそれはただ、その 状況下では理に適っていたからだ。そこには、フィリップ・ヴァンパライスが『シンプルでパワフルなアイディア』として特徴づけたベーシックインカムの劇的な弁明は、ほとんどない。

確かにイランの『現金補助金』(それが公式の名称である。)は、一般的に理解されている本格的なベーシックインカム配当としては不十分である。すべての世帯員の権限は、世帯主一人に行き、成人していても、個々の世帯員には行かない。この計画の持続期間は明記されていないが、原則的には国内消費のための原油の産出が、イランで可能な限りは続けられるはずである。資力調査目標は完全には放棄されておらず、政府が現在の試みよりも目標を定めたほうが役に立つと判断した場合、復活するかもしれない。権利に基づいた ベーシックインカムの土台は、現在のイランの現金配当についての談話からは聞こえてこない。支給は人権によって市民に付与される『所得』と看做されておらず、価格補助金の損失を補う、別のタイプの補助金と看做されている。(だがこれが実質的な違いを生むかどうかは、興味深い疑問である)。これらは、きちんとした生存所得に近づいてもいない。(5人家族の一ヶ月200USドルは、最低賃金一ヶ月分の3分の2である)。また何年も、時には数十年もイランに住んでいる2百万人以上に及ぶアフガンとイラクの難民を除外し、彼らは物価上昇の矢面に立たなければならないことになる。そして最後にいま一つ大事なことを述べるが、仮にも物価上昇が実施される日々の先々で影響を及ぼし、そしてもし、インフレが失態によって手に余るものとなれば、すべての体系が崩れ去るかもしれないという、本当の恐怖がある。

別の見方をすれば、これは、全国的なベーシックインカムに向けられた厳しい障害がすでに克服されたことの論証となるであろう。その計画は法律に明記されている。給付は普遍的である(十分裕福で、単に登録 を行なわなかったことによって権利を喪失したものは省く)。財源は保証されていて、中期的には持続することを目している。そしてもし改革が、政府が掲げた 消費パターンの合理化目標の達成、投資と有効性の増加、貧困の撲滅と減少のための所得の再分配に、ある程度成功したならば、彼らの未来はまさしく保証されるはずである。とりわけ、この大いに重要な社会政策の変更が、数ヶ月、数年に渡って繰り広げ、進歩する精密で、包括的、連続的な影響評価にさらされれば、 この計画の継続はまた、その欠点が見分けられ、修正されることを可能にする。

前人未到の領域と範囲における、現金譲渡システムによる価格補助金の置き換えが為されたイランは、全国的なベーシックインカムに向けて前進するすべての国々の最先端に置かれた。このような移行が、多くが推測していた北ヨーロッパの先進国ではなく、発展途上の、中東の、イスラム教国家でなされたという事実は、 ベーシックインカムのコンセプトが、広範囲の国々に対して妥当であることを強調する。イランの経験の特殊性は無視されるべきではない。それは大部分、国内の石油資源と並外れて歪んだ価格設定政策の複合的な可用性が可能にし、それどころか、解決の一環としての事実上のベーシックインカムの出現は、ほとんど必然的ですらある。しかしこのモデルは依然として他の国々にとって何らかの妥当性をもつだろう。特に鉱物を産出している国々にとって。また巨額の補助金を拠出している国々が、追加の課税なしに補助金を他のルートに切り替える智慧と実現可能性として、ベーシックインカムの供給を探る機会となるかもしれない。もし彼らが適切に描かれ、確信させるならば、イランの経験は幅広い適用性についての知恵を提示することとなるだろう。

このテーマに関する更なる情報は、次回のベーシックインカム・スタディーズ(Basic Income Studies)の、ハミッド・タバタバイによる『ベーシックインカム:イランの補助金制度改革への道』を参照するか、hatmtab@gmail.comへお問い合わせ下さい。

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