どのようにして国内唯一の州立銀行がウォール街に羨まれるようになったのか?

ノースダコタ銀行は、共和党員が風変わりな社会主義の拠点とでも呼びそうな、アメリカ内で唯一の州立銀行である。またノースダコタ銀行は昨年、ちょうどその民間セクターの必然的帰結として数億ドル損失しているときに、記録的な利益を得た。なるほど、この希有な成功は、住宅投機に重点を置かず、農業による主要生産物を大事にしたノースダコタの隔絶性の高い経済によるところが大きいだろう。しかし、それは他州からの政治家たちが冷え冷えとしたビスマークに助言を求めて道を切り開くことを止めはしない。アメリカ各地での州立銀行の開業は、この金融危機からわれわれを救い出すことができるだろうか?それは確実に役に立つだろうと『Web of Debt』(負債の網)の著者エレン・ブラウン女史は言う。彼女は本の中で、ノースダコタ銀行が40億ドルの運用とともに、“独自の信用を創造し、州財政の主権の確立を国内で先導することによって”信用凍結を避けてきているという。マザー・ジョーンズはノースダコタ銀行の代表、エリック・ハードマイヤーに話をきいた。

マザー・ジョーンズ(以下MJ): どのように銀行は形成されたのですか?

エリック・ハードマイヤー(以下EH): 銀行が創られたのは、人民主義運動が北部平原を席巻した90年前の1919年です。基本的にそれは、東部の市場で為された決定に動揺した農業部門の大規模集団による怒りの運動でした。恐らくはミネアポリス、ニューヨークの金融市場で、誰が融資を受け、誰が彼らの商品を市場で売買するかが決定されていたのです。そしてその運動は北部平原を吹き荒れました。ノースダコタでその運動は無党派同盟と呼ばれ、彼らは実際に州議会を掌握し、産業計画を立案しました。その産業計画で、ノースダコタ銀行を資金調達の腕として、そして州立の製粉場とエレベーターを農場主からの穀物を市場で売買するために設立しました。そして現在でも、90年前に創設された目的でこの二つは現存しているのです。私たちはほんの少しだけ手を加え、ノースダコタ州を発展させる新たな分野と方法を見つけ出してきました。

MJ:何が現在この銀行を独特なものにしているのですか?

EH:私たちの資金調達モデル、預金モデルは銀行を運営する上で、非常に独特な動力源となっています。すなわちそれは、私たちがすべての州税と納付金の預金機関であることです。なので、私たちには専属の預金ベースがあり、州財務局には競争料金を支払います。そしてそれは間違いなく、公的資金の入札でこうしたチャンスをもぎとる民間セクターには最も手に入れづらいものの一つです。しかし、それはほんの一部に過ぎません。私たちはこれらの資金を受け取り、そしてそこからが本当の違いなのですが、これらの預金をローン形態でノースダコタ州に再投資するのです。私たちは州の経済発展型の活動に対して再投資を行ない、このような仕組みを通して州を成長させています。

MJ:明らかなことですが、他の銀行も彼らの預金を投資しています。 州独自の経済に大半の資金を投資しているということとの相違点はありますか?

EH:ええ、もちろんです。しかし具体的には、経済の一定の要素を刺激するプログラムを私たちはデザインしています。それは農業であれ、
経済開発プログラムであれ、州に必要だと看做されるもの、また、現在州内で大きな動きがあると見られるエネルギー関連に対するものです。そして教育。私たちは多くの学生ローンに出資しています。これが私たちのモデルです。私たちには90年前に創設された時点で与えられた明確なミッションがあり、それが歴史を通して私たちを導いています。

MJ:他の銀行が避ける分野で、投資することはありますか?

EH:私たちは、国内で最初の連邦保険付き学生ローンを1967年に始めました。そしてこれが私たちの業務の大きな部分を占めています。これは既に、極めて重要なものになっています。あなたが最近の学生ローン業界に通じていらっしゃるかわかりませんが、しかしこれは、多くが撤退を決定するだけに、とても興味深いものなのです。けれども私たちは撤退しません。

MJ:つまり、あなたたちは公益を生じる特定の分野に出資可能なのですね?

EH:はい。もしくは、エネルギーや第一次産業関連ビジネスの方面です。私たちは、確実な線に沿った活動を奨励するためにデザインされた低金利の貸付けプログラムを取り扱っています。その他には、ノースダコタのファーゴというところにあるコミュニティにおける重大な洪水被害に本腰を入れています。私たちは12年前、ハリケーン・カトリーナに先駆けて別のコミュニティでこうした被害を経験しており、それは合衆国で最大の単独避難行動でした。それからノースダコタ銀行は、いったん洪水が退いたあとに、必要があるところへ災害向けローンを展開し、業務を支援しました。このように私たちは様々なシナリオに対して、異なる経済主体の成長を励ますにせよ、災害に取り組むにせよ、かなり迅速に援助を行なうことができます。

MJ:民間銀行はあなたたちをどのように考えていますか?

EH:この銀行の興味深いところは、私たちと民間セクターが競争と提携の微妙なラインを歩んでいることを理解し合っていることにあります。私たちは民間と競争するためではなく、協力し合う為に設計され、設立されました。従って、私たちが行なうほとんどの貸出は、本来は一般参加型のものです。それは地元銀行によって始められ、私たちが参入してローンに関与し、リスクを分担するために私たちの幾つかのプログラムを利用して利率を軽減*させました。さらに私たちは、中小企業局と同様に起業家の立ち上げに対して、確実な活動を促進する保証契約を供給しています。それとは別に、私たちは銀行の銀行として、卸売銀行としての役割も果たしています。ですから、私たちは銀行に対して、小切手処理、 流動資産の保有、債券勘定保管などのサービスを提供します。恐らく国内全域で、20以上の銀行の銀行があります。そして私たちは能力という点で、実際、ミニ連邦準備銀行としての役割を果たしています。それで私たちは、104の銀行に対してサービスの提供、流動資産の供給、小切手処理、そしてさらに限度額に収めなければならないときに、彼らからローンを買い取ります。法的な貸出限度の超過、もしくはリスク分散を希望してのことであれ、私たちは受け入れます。私たちは住宅ローンの再販市場であり、したがって、私たちが購入した住宅ローン、5億〜6億ドルの目録を所有しています。(*バイダウン方式:借入契約発足当初に借り手または第三者が一時金を支払い、事後の提起返済利子負担を軽減する方式。)

MJ:それでは、私的に所有されるかわりに、公的所有の「銀行の銀行」の利点はなんでしょう?

EH:私たちのモデルでは、ローンの資金を拠出することを通じて、他の銀行を助けるために私たちの預金ベースを使用しています。さらに、フェデラル・ファンド* の取扱品目を、私たちの余分な流動資産をもって供給しています。私たちはフェデラル・ファンドを売買し、小切手処理のための手形交換所の役目を果たしています。これが、便益モデル、もしくは異なるモデルということになるでしょう。私たちは預金銀行であり、提供する為に持ち出すことができます。(Fed funds* 米国の市中銀行が連邦準備銀行に預けている資金。資金が不足した場合、市中銀行間で賃借が起こる。)

MJ:もし他の州があなたたちのような銀行を持ったならば、彼らが、今よりも金融恐慌から防護されることが可能だとお考えですか?

EH:それはすべて経営と経営哲学にかかっています。ここ北中西部の私たちはかなり保守的で、私たちは一切サブプライムローンを行なったことはなく、デリバティブ市場に参入する能力、スワップ、コール、キャップやクレジット・デフォルト・スワップを提供する能力はありますが、単に参入しないことを選択しました。実際にウォーレン・バフェット*のメンタリティー(もし理解していないのならば、飛び込んでいくことはない。)を選択したのです。そうして私たちは、こうしたすべての落し穴を避けてきました。全てに対して完全に動じないとは言えないまでも、もちろん幾らかの不動産担保証券を購入しており、こうした問題の克服にとりかかっていますが、しかし、何も私たちが憂慮するような原因とはなっておりません。(*Warren Buffettーアメリカの著名な投資家、経営者。明確な投資哲学・スタイル(長期投資を基本スタイルとする)や先見性を持ち、空前絶後の投資運用成績を残している偉大な投資家という点だけでなく、慈善事業に積極的な点、大富豪となっても質素な生活を送っている点などから、世界中から尊敬を集めている人物。)

MJ: あなたたちをモデルとする州は、この金融恐慌を抜け出す新たな手段を持つことができるでしょうか?

EH:言い方を変えて、私たちの行なっている他のことについて申し上げましょう。私たちはさらに利益配当を州へと返還します。恐らく今年度は、6000万ドルぐらいの売り上げとなり、私たちは利益の約半分を州の一般会計へと返還します。ですから、この10年、12年間を通して、税を補うためや公共部門に必要な財源を援助するために、10億ドルの3分の1を一般会計へと返還しています。

MJ:人口60万人の州には、まんざら悪くないですね。

EH:その通りです。2001〜2年に戻って、さらにもう一つ。私たちがインターネットバブルをくぐり抜けたとき、ノースダコタ州を含め、すべての州はある種の予算不足に苦しみました。当時の私たちの予算不足はあまり大したことがなく、4000数万ドルでした。ですから、それを克服するのは極めて容易なことでした。当時の知事は単にこういいっただけです。「承知した。私たちはすべての一般会計機関から1%ずつ返還しよう。そしてノースダコタ銀行、あなたたちはバランスを取るために新たな配当金を提示して下さい」。そして私たちはそれを行ないました。私たちの資金は、それを進んで行なうのに良好な状態にあり、そして行ないました。そのように、万一に備えて、私たちは困ったときの貯えとして行動します。

MJ:そして現在の景気後退は、あなたたちを迂回しているように見えますね。

EH:ノースダコタ州は全く財源問題を抱えていません。実際に私たちは、これまでで最も巨額の黒字を取り扱っているところです。ですから私たちの心配事は、これをどうのように賢く遣い、そしてどのように未来にむけて貯えるかということです。

MJ:それは抱えて悪い問題ではありませんね。

EH:はい。私たちはちょっとした孤島にいるようなもので、周囲を見渡し、「なんてことだ、国の他の場所で起こっていることを見るのは信じられない」と言っている様なものです。そしてここで、私たちは完全に景気の循環に反していると。

MJ:他の州は、あなた方のモデルに興味を抱いていますか?

EH:私が総裁の期間、現在で9年くらいになりますが、どのように機能しているのか、他の州に対しても機能する可能性はあるだろうか、といった多くの問い合わせを他の州から頂いてきました。そして現在、ノースダコタ州知事である私の前任者は、実際、いくつかの他州の議会で、同様のモデルを設立するという件に関して証言を行ないました。これは、1〜2年前には、決して起こらなかったことだと、断言できます。

MJ:それは面白いですね。ノースダコタは伝統的にレッドステイト(共和党支持者の多い州)であるにもかかわらず、あなたたちはこうした制度をもっている。人によっては、「彼らは社会主義者だ」というかもしれない。

EH:はい。そうしたことを何度か投げかけられたことがあります。

MJ:しかし、彼らは州ではとても一般的のようですが。

EH:はい。言うまでもなく、社会主義のテーマは最近になって流行してきていますし、わずかばかり振り回されています。

MJ:政治的敵対勢力や銀行の利害関係を別として、他の州であなたたちのモデルを実践して成長できると思われますか?

EH:現在起こっていることの大半は、規則や会計実務が、あるべきところになかったことで生じた出来事に対する、脊髄反射的な反応です。ですから私のアドバイスは全員が深呼吸をすること。そして、必要なところに無くてはならない規制、背負っているリスクを理解している銀行とともに、入り込む以前よりも強固な産業として私たちはこれを終わらせ、抜け出していくということです。すべての州がノースダコタのモデルを見て、「これが全てに対する万能薬であろう」、ということにはならないと思います。

MJ:確かに、これが唯一の解決策ではありませんが、その一部になり得るのではないか、と私は興味を抱いています。

EH:かも知れません。ただ、彼らがそれで何を行ないたいかによります。私たちはこの仕組みを、州内の住宅ローンの資金繰りであれ、学生ローンを作ることによってであれ、他では安心できない得意分野を供給し、州の経済成長を刺激するために使用しています。すべての州には独自のニーズがあります。私たちはここに、それなりの特定分野を切り開いてきており、銀行業界の同業者たちからも、とても敬意を払われていると思います。彼らは私たちを、競争相手としてではなく、パートナーとして見ています。もし、どこか他の州で、私たちのモデルの一部を再現して行なうとすれば、そこが鍵となるでしょう。そこが、州有企業が民間部門と競い合うという批判に対して、本当に自身を曝け出す場所となります。

MJ:民間銀行の預金を吸い出すこと無く、短期間であなた方のような銀行を設立することは可能でしょうか?

EH:資金源として使用するために、なんらかの債券発行を行なうことができるのではないかと想像します。

MJ:金融恐慌の広がりを見たあとで、業務に関する、あなた方の見解は変化しましたか?

EH:それはまさに、私たちが行なっていることを強固なものにしました。すなわち、理解すること、上手く成し遂げること、顧客を知ることを貫くということです。私たちは、ホームランを狙うような銀行になろうとしたことは一度もありません。それは私たちにとってすべてではありません。私たちにはそれよりも重要な、はっきりとした使命があります。ほとんどの企業と銀行の最優先事項は、株主還元を最大化することです。そしてそれは、私たちにとっては好ましい副産物です。何故なら私たちはには結構な還元、2%のNROA(運用資産収益)、25〜6%のROE(株主資本利益率)があります。しかし私たちが本当に最も満足を得るところは、州のニーズに応え、私たちの州を前進させるものをファイナンスしていることに確信していることです。

2009年3月27日  ジョッシュ・ハーキンソン
原著 http://motherjones.com/mojo/2009/03/how-nation%E2%80%99s-only-state-owned-bank-became-envy-wall-street

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